
■マンションの共用足洗場は必要か?
マンションで見かけるペット用の足洗い場はペット可物件のアイコンのような存在です。
ペットを飼っている方へのインタビューでは、共用の足洗い水栓が欲しいという声はやはり多く、ないと部屋の玄関でウエットティッシュを何枚も使わないとけいない、等不便な様子を伺います。
一方で、共用足洗い場については、否定的な意見も少なくありませんでした。特に、あまり使っていない、あるいは全く使っていないという人たちからは、次のような声がありました。
「エントランスから部屋に戻る間にまた汚れてしまい、結局もう一度部屋で洗うことになるので、共用足洗は使っていない」(35才女性)
「温水が出ないと冬は冷たくて使えない。利用している方はいらっしゃるのですか?」(40才女性)
「共用設備だと衛生面が気になり、あまり使う気になれない」(38才女性)
これらの衛生面への配慮や、ペットへの細やかな気遣いは、インタビューの範囲では主に女性から多くみられました。そして、こうした課題は、日本の「靴を脱ぐ文化」ならではのものと言えます。犬と散歩から帰ってきて室内に入る、という行動如何に効率よくするかは日本の生活様式にとって重要なポイントであり、特にスペースに限りのあるマンションでは、足洗い場の位置や使いやすさをしっかりと考えることはとても大切だと言えるでしょう。
■理想の住戸内足洗いあれこれ
そのことに気づいてから犬を飼っている方に理想の足洗いはどのようなものかを、折に触れてヒアリングしてきましたので、今回はその一部をご紹介したいと思います。
1)玄関手洗いでの足拭き
コロナ以降、玄関に手洗いスペースを設けたいという要望が増えましたが、そのような「玄関手洗い」を活用するという意見が最も多いものでした。
ただ、マンションの玄関は戸建て住宅程スペースがなく、家の顔に無骨な水栓が不釣合になりがちです。手洗いのデザインに考慮して、より玄関が上質に見えるようにする工夫するとよいかもしれません。
玄関での足拭きの課題がマンションの玄関の狭さで、拭く前に汚れた脚のままフローリングに上がってしまい、毎回フローリングも拭くという方もいらっしゃいましたので、必要に応じてリードフックを設置することも考慮するとよいでしょう。

2)SIC(シューズインクローク)に水栓を設ける
戸建て住宅で近年多く見られる通過型のSIC(土間から個室化されたSICに入って廊下へ通り抜ける勝手口スペース)を設けてそこに水栓を設置したいという意見もありました。
玄関はタオル、リード、犬用レインコート、トイレ用の水筒や、トイレのゴミ箱、さらにはクレート等などたくさんの物をおきたいので、それらの収納課題と、足拭き問題を一度に解決することを目指した意見で実現できれば便利だと思われます。ただ、70㎡前後の部屋に計画しようとすると、LDKや個室を圧迫して狭くなってしまう点が悩ましいところです。

3)浴室で洗う
上記2つは土間で犬の足を拭く方法をベースにしていますが、ヒアリングされた方の中には散歩帰りに犬を抱えて浴室まで運び、シャワーで脚やお腹を洗うという方もいらっしゃいました。
飼っている犬は大型犬でしたが、まだお若くて体力もあるのでできる方法といえます。そしてこの方は専門の学校でペットについて学ばれていて、足を洗ったあとドライヤーで完全に乾していると話されていました。
この方の理想の足洗いは「脱衣室から浴室に入る動線に加えて、玄関から直接浴室に入る」という2ウェイの浴室がある間取りでした。なかなかユニークなアイディアです。ただ、多くのマンションは漏水で階下の住人に迷惑をかけないよう既成の「ユニットバス」を推奨しており、扉が2つあるユニットバス製品がないので、どうしても図のように玄関から脱衣経由でお風呂に行く動線になります。洗面所の床も都度拭くのでちょっと手間がかかりますね。

4)洗面所の犬ケア用フリップ台
足洗いを洗面所で対応したいという方もいました。
「玄関まわりにスペースを取るより、居室を広くしたい」というのが主な理由でした。ただ、小型犬であれば洗面ボウルで洗うこともできますが、中型犬以上になると難しくなりますし、生活スタイルやデザインの観点からボウルで洗うのは避けたいというご要望もお持ちでした。
そこで出たのがデパートや施設のトイレで見かける折り畳み式の台を用いるアイディア。洗面台の背面に倒して開く台を設け、犬を乗せて脚や体を拭いたり、ケアもできるというものです。洗面所のスペースの確保が必要ですが、収納計画と一体的に考えると使い勝手の良いスペースになりそうです。ユーザーニーズに基づく面白いアイディアではないでしょうか。

■サイズはどの程度変わるか
上記のアイディアは戸建て住宅であれば自由度をもってプランニングできますが、マンションの玄関水回りは一般的にコンパクトに計画さるので現実的に実現できるかを検証してみました。

区画のサイズや形によって変わりますが、添付のプランの通り、現実に存在する68.5㎡の事例では玄関水回りのエリアサイズを10㎝前後調整するだけで、アイディアを凡そ実現できることが判りました。
やはり一番困難なのはSICに水栓を付けて通過型にするアイディアで検討プランでは、玄関の横に大きなクローゼットを設けて対応する方法で記載しました。
これまであまりみることがないプランもありますが、日本のマンションにおける犬の足洗い動線として参考になるのではないかと思います。
■結び
こうしたヒアリングから、犬の「足洗い」に関するニーズや設計の可能性は幅広く、コンパクトさを求められるマンションにおいても、まだ新しい住まい方を見つける可能性があることが判りました。
この記事を読まれた方はどう感じられるでしょうか? もし他にもアイデアやニーズがあれば、ぜひ教えて下さい。