
vol.4
前回のコラムでは、賃貸住宅のペット共生は、すべてを建築で実現するのではなく、「基本性能」と「楽しさ」のバランスを考えることが大切だとお話ししました。
では、そのバランスは実際にどのように判断すればよいのでしょうか。
私は、ペット共生の仕様を次の3つに整理して考えています。
A:設計でできること
B:人にも価値があること
C:ペットだけのためのこと
この3つに分けて考えると、コストをどこにかけるべきか、どこを入居者の工夫に委ねるべきかが整理しやすくなります。
その考え方を、今回は犬を例にご紹介したいと思います。
犬の暮らしから考える
犬は、飼い主の気配を感じられることを安心の土台にしています。
身体を伸ばせる広さがあり、甘えたいときには近くに行ける。
一方で、静かに過ごしたいときには少し籠もれる場所も必要です。
散歩をし、外の匂いを嗅ぎ、帰宅したら足を洗い、安心できる場所で食事と休息をとる。
こうした一連の暮らしを、どこまで建築で支え、どこから暮らし方に委ねるのか。
それが、ペット共生賃貸の設計で最も重要な判断になります。
A:設計でできる
まず考えたいのは、お金をかける前に設計でできることです。
人の気配を感じながら犬が安心して過ごせる居場所、家具を置いても犬がゆったり体を伸ばせる余白、収納下部を床と連続させたペットスペース。
こうしたものは、面積や家賃を変えなくても設計の工夫で実現できます。
検索サイトでは伝わりにくい部分ですが、入居後の満足度を大きく左右します。
ここは、設計者が最も腕を振るうべきところだと思っています。

B:みんなに嬉しい
次に考えたいのは、ペットだけでなく、人にも価値が伝わる仕様です。
防音性の高いサッシは、吠え声対策だけでなく断熱性能も高まり、冷暖房効率も向上します。
滑りにくい床は犬の足腰に優しいだけでなく、人にとっても歩きやすい床になります。
玄関近くの手洗いも、犬の足洗いだけでなく、帰宅後すぐに手を洗える設備として、今では多くの方に喜ばれます。
建設コストは上がりますが、人にもメリットがあるため、結果として幅広い入居者から評価される仕様になります。

C:ペット専用
最後が、純粋にペットのための仕様です。
メンテナンス性に優れた床材、さらに高い防音性能、犬とくつろげるヌック、小上がり下のケージスペースなど、暮らしをより楽しくする工夫がここに入ります。
私自身、この部分は設計していて一番楽しいところでもありますし、お客様からもご要望をいただくことが多い部分です。
ただし、ここを増やしすぎると、家賃とのバランスが崩れやすくなります。
だからこそ、Cは「ここぞ」というポイントに絞ることが大切です。

経営的な視点で考えれば、
Aをしっかりつくり、Bを積極的に取り入れ、Cは本当に必要なものだけに絞る。
これが、私が考えるペット共生賃貸の基本です。
とはいえ、それだけでは物足りなさが残ります。
ペットとの暮らしの楽しさは、人それぞれ違うからです。
だから私は、最初から完成形をつくるのではなく、入居者自身が暮らしながら育てられる余白を残すことも大切だと考えています。住まいを完成させるのは設計者だけではなく、そこで暮らす入居者だからです。
次回は、犬より立体的な選択肢が多い猫の住まいを例に、「カスタマイズ」の設計についてご紹介したいと思います。
