犬と飼い主の「心と体」はどこまでシンクロする?
―最新研究が明かす驚きの共調現象

私たちが愛犬と過ごすとき、心が通じ合っていると感じる瞬間はありませんか?
この「感覚」は、実は科学的にも裏付けられつつあります。2024年4月に『Scientific Reports』誌に掲載されたフィンランド・ユヴァスキュラ大学とヘルシンキ大学の共同研究(Koskelaら, 2024)は、犬と飼い主の間に生じる「生理的・行動的な共調(co-modulation)」を実験的に明らかにしました。
人間と犬の「絆」はどこまで深い?
人間同士では、親子や恋人、親友の間で「心拍や行動が自然とシンクロする」現象が知られています。これは、安心感や信頼、愛着といった感情が生理的なレベルで共有されている証拠です。
犬と人間も、長い進化の歴史の中で「家族のような絆」を築いてきました。しかし、犬と飼い主の間に本当に生理的なシンクロが起きているのか、そのメカニズムはこれまで十分に解明されていませんでした。
今回の研究では、協調性が高く人と密接に暮らすことが得意な「シープドッグ」や「レトリーバー」などの犬種のペア25組が参加しました。
実験は、大学の静かな部屋で、犬と飼い主が1時間ほど一緒に過ごすというもの。
その間に「なでる」「トレーニング」「嗅覚遊び」「一緒に遊ぶ」など、さまざまなインタラクション課題と、始めと終わりの安静時間(ベースライン)が設けられました。
犬と飼い主の心拍変動(HRV)と身体活動量は、特殊なセンサーで同時に計測。さらに、飼い主の性格特性や犬との関係性についてもアンケート調査が行われ、データの多面的な解析がなされました。
「共調」は本当に起きていた!
結果、犬と飼い主の心拍変動と活動量は状況によって見事に連動していることが明らかになりました。
- 安静時(自由行動時)には、犬と飼い主の「心拍変動」が強く同期していました。これは、感情的な落ち着きや安心感が生理的に共有されていることを示します。
- なでる・遊ぶといった活動時には、犬と飼い主の「身体活動量」が高い相関を示しました。つまり、一緒に遊ぶことで体の動きが自然とシンクロするのです。
また、犬の心拍変動は、犬自身の体格や飼い主との関係性、飼い主の性格(特にネガティブ感情傾向)などにも影響されることが分かりました。
さらに、犬と飼い主のペアを入れ替えてデータを分析したところ、この共調現象は消失。「本物の絆」があるペアでしか生じない現象であることが証明されました。
この研究は、犬と人間の間に「親子」や「親友」と同じような生理的・感情的なつながりがあることを、初めて定量的に示したものです。
犬と飼い主が一緒にいるだけで、互いの心身が影響し合い、安心感や幸福感が生まれる――。
この「共調」は、単なる気のせいではなく、科学的事実なのです。
この発見は、ペット共生住宅の設計や、犬との暮らし方にも新たなヒントを与えてくれます。
例えば、犬と飼い主が安心してリラックスできる空間を用意したり、一緒に遊ぶ時間を大切にすることで、お互いの健康や幸福度がより高まることが期待できます。
また、犬の個性や飼い主の性格、関係の深さが生理的な共調に影響することから、「その家族ならではの絆」を育む工夫も重要になってくるでしょう。
愛犬と過ごす日々の中で感じる「心のつながり」は、科学的にも実在するものです。
犬と人間の共調現象――それは、長い共進化の歴史が生み出した、かけがえのない「家族の証」なのかもしれません。
MUSUBI houseでは、「共調」に着目。人例えば、愛犬の気配を感じられる開放的なリビングや、安心してくつろげる専用スペース、人と犬がともに過ごすことを前提とした共有空間など、と犬が自然に心を通わせながら暮らせる住まいを提案していきます。
参考論文
Koskela, A., Törnqvist, H., Somppi, S. et al. “Behavioral and emotional co-modulation during dog–owner interaction measured by heart rate variability and activity.” Scientific Reports 14, 76831 (2024).